2019.07.17更新

🍎血栓症って、どんな病気なの?

●血管の中に血のかたまりができ、血管がつまってしまう病気

血栓症とは、血管の中で血液のかたまりができ、血管がつまってしまう(血液の流れを止めてしまう)病気です。
血栓ができる部位によって名前がつけられており、いちばん血栓が生じやすいのは“足(下肢・ふともも・足のつけ根)の静脈”で「深部静脈血栓症」といいます。脳梗塞や心筋梗塞も血栓症の仲間です。

●エコノミー症候群は、足の静脈にできた血栓が肺に飛んで起こる

飛行機の中やデスクワークなどで長時間同じ姿勢で動かずにいることで起こる血栓症を、俗に「エコノミークラス症候群」と呼んでいます。これは足の静脈にできた血栓が、血液の流れに乗って肺の動脈まで移動して血管をふさいでしまう病気で、正しくは「肺塞栓症(はいそくせんしょう)」と呼びます。

足の静脈にできた血栓が肺に飛ぶと、命にかかわる事態にも・・・

血栓は足の静脈にできやすく、この血栓は肺の動脈に飛びやすいという特徴を持っています。
足に血栓ができると、血液の流れに乗って右心房、右心室を経由して肺動脈まで運ばれ、「肺塞栓症」の原因となります。この肺塞栓症は、早急に治療を受けないと生命の危険にかかわる非常に怖い病気です。
肺塞栓症と深部静脈血栓症はとても関係が深い病気で、これら2つを合わせて「静脈血栓塞栓症(じょうみゃくけっせんそくせんしょう)」と呼びます。

🍎ピル(OC)を飲むと血栓症になりやすいの?

●低用量ピルを服用することで、わずかに発症リスクは高まる。しかし妊娠中・出産後のほうがはるかに血栓症になるリスクは高い

海外の疫学調査※によると、低用量ピルを服用していない女性の静脈血栓症発症のリスクは年間1万人あたり1~5人であるのに対し、低用量ピル服用女性では3~9人と報告されています。
一方、妊娠中および出産後12週間の静脈血栓症の発症頻度は、年間1万人あたり、妊娠中は5~20人、出産後は40~65人と報告されています。
低用量ピルによる血栓症リスクばかりが大きくクローズアップされていますが、実は妊娠中や出産後12週間の発症リスクのほうがはるかに高いことがわかります。低用量ピルの服用時はもちろん、妊娠中と出産後の血栓症にも気をつけることが大切なのです。
※数値は日本産科婦人科学会HPより引用

🍎ピルの服用や妊娠/出産で、どうして血栓症のリスクが高くなるの?

エストロゲンには、血液を固める“凝固作用”がある

女性の卵巣から分泌されているエストロゲンには、もともと血液が固まりやすくする凝固作用があります。
低用量ピル(EP配合剤)にはエストロゲンとプロゲスチン(合成黄体ホルモン)が含まれていますが、低用量ピルを服用することで血液中のエストロゲン濃度がアップし、血液凝固作用が高まると考えられています。

●お産時の出血から母体を守るため、出産前には自然に、血液の凝固機能が高まる

一方、どうして妊娠・出産すると血栓症リスクが高まるのでしょうか。原因は複数あり、

1. 出産時には500cc程度の出血が見込まれるため、出血のリスクから母体を守るために、妊娠後期になると血液の凝固機能が高まる。

2. お腹が大きくなると腹腔内の静脈が圧迫され血流が悪くなる。

3. 妊娠するとエストロゲンの分泌量が増える。

4. 妊娠すると母体の血液量は非妊娠時のおよそ1.4倍となり、それにともない血小板や白血球の量も増える。そのため血液が固まりやすくなる。

などの要因がからまり合って、血栓症が起きやすくなるといわれています。

●帝王切開での出産では、普通分娩より血栓症のリスクが7~10倍高まる!

出産後12週間での血栓症発生率は、年間1万人あたり40~65人程度だと前述しましたが、実は帝王切開による分娩では、経膣分娩よりも7~10倍、血栓症になるリスクが高まるといわれます。
帝王切開を始めとした婦人科手術では、骨盤内の操作が多い上に、手術後はなかなかベッドから起き上がれず横になったままの時間が多くなります。そのため血液の固まりができやすく、血栓症になりやすいとされています

🍎低用量ピルを飲むのを避けた方がいい年齢や体質ってあるの?

●出産後半年未満、40歳以上、肥満、喫煙、前兆のある片頭痛などにあてはまる場合は低用量ピルの服用は避けて!

低用量ピルは、避妊用としてだけでなく、子宮内膜症や月経困難症などの治療にも使われる非常に効用の大きな薬です。しかし以下に挙げる条件にあてはまる場合は、血栓症の発症リスクを高めてしまうため避けたほうがいいとされています。

〈出産後・半年未満〉
出産後は血液が固まりやすくなっていますから、低用量ピルの服用は避けましょう。また出産後は子宮が柔らかく穴が開きやすくなっていますので、避妊リングを入れるのも避けてください。低用量ピルの服用と避妊リングの挿入は、出産後半年が経過してから行うようにしましょう。

〈40歳以上〉
年齢が高くなると血液が固まりやすくなるため、低用量ピルの服用は避けましょう。30代から服用をしてきた人は、主治医と相談して、黄体ホルモンの単剤(ディナゲスト等)やミレーナ(子宮内黄体ホルモン放出システム)などにスイッチしていきます。

〈タバコを吸っている 肥満(BMI 25以上)〉
喫煙と肥満は、血栓症になりやすい重大なファクターです。肥満の場合、BMIが25以上だと3倍、BMIが30以上だと4倍、BMIが40以上だと6倍、血栓症になりやすいというデータがあります。低用量ピルを服用する場合は禁煙し、痩せる必要があります。

〈キラキラの見える片頭痛がある〉
頭痛が起きる前兆としてキラキラした光が見える(閃輝暗点;せんきあんてんが見える)片頭痛がある人は、脳血管障害がおきやすいとされています。低用量ピルを服用することで脳内に血栓ができる脳梗塞のリスクが高まるため、服用は避けた方がいいでしょう。

〈高血圧・高脂血症〉
高血圧や高脂血症などの生活習慣病がある場合も血栓症のリスクが高くなります。

〈日頃からたくさんのお酒を飲む〉
日頃からお酒をたくさん飲む場合、脱水状態になりやすく、血液がドロドロになるため血栓症にかかりやすくなります。低用量ピルの服用を希望する場合は、お酒はほどほどにする必要があります。

〈家族に血栓症になった人がいる〉
生まれながらの体質として血液の凝固障害があるなど血栓症になりやすい人がいます。家族に血栓症の既往歴がある場合は、低用量ピルの服用前に主治医に相談してください。

●血栓症は、低用量ピル服用後、1~3カ月目に起きやすい

上記のケースとは少し異なりますが、低用量ピルによる血栓症は、服用を始めてから1~3カ月の間に起きやすいとされています。服用開始直後の3カ月間は、体調の変化に気をつける必要があります。
また服用を途中でやめると、発症リスクはまた最初の1~3カ月目と同じになりますので、飲むなら続けて服用することが大切です。

🍎日頃からできる血栓症の予防法は?

●1時間以上同じ姿勢を取らない、水分を補給するなどして予防を

血栓症はさまざまなファクターが重なることで発症します。日常生活の中では、以下の2つを特に心がけてください。

1時間以上、同じ姿勢をとるときは足の指を動かしたり、かかとの上げ下げをする

長時間飛行機に乗ったり、デスクワークが続いたり同じ姿勢をとらざるをえないときはときには、1時間おきに、その場でできる足の体操をするといいですね。

・かかとを床につけたまま足の指を曲げたり伸ばしたりする。
・足のつま先を床につけたまま、かかとの上げ下げをする。
・足を下から上へ、拳(こぶし)で叩く

水分補給をこまめに行う

体が脱水症状となり血液がドロドロになると、どうしても血栓ができやすくなります。こまめに水分(水やスポーツドリンクなど)を補給しましょう。

🍎妊娠中や出産後は、どう気をつけたらいいですか?

●弾性ストッキングの着用が有効。
  出産後は、なるべく早期の離床を!

妊娠中や出産後はなかなか思うように体が動かせないことが多いかもしれません。その場合は、日頃から弾性ストッキングを着用し、足の静脈を圧迫することで血液が滞りにくい環境を作りましょう。
また出産後や帝王切開後は、痛みや疲労などでベッドに横たわりがちになりがちです。しかし特に帝王切開後は、寝てばかりいると血栓症の発症リスクを著しく高めてしまいます。主治医からのOKが出たら、少しでも早く(出産後24時間以内に)離床し、カラダを動かしたり、歩くようにしてください。

🍎血栓症ってどんな症状が出るの?

●片方のふくらはぎが、むくんで痛いときは、早めに医療機関へ!

血栓症の症状としては、以下のようなものがあります。
・片方の足のふくらはぎがむくんで痛い
(ふとももや足のつけ根が痛い場合も)
・手足がしびれる
・息苦しさがある
・持続する胸の痛み
・めまいがする
・激しい頭痛
・視界の一部が見えにくい

🍎血栓症かな・・・と思ったら、何科にいけばいいの?

●循環器内科、夜間の場合は救急外来へ。
  低用量ピルを服用していたら必ず伝えて!

血栓症かな?と疑われるような症状がある場合は、昼間なら循環器内科、夜間の場合は救急外来を受診します。
循環器内科を受診することで、血栓の部位を特定するための超音波エコー検査やCT検査をすぐに受けることができます。さらには、血栓の有無を確認するための血液検査(Dダイマー)をすることも可能です。
また医療機関を受診する際、低用量ピルを服用している場合には、必ずその旨を伝えてください。血栓症か否かを診断する上で、非常に重要なファクターになります。

🍎血栓症の治療はどう進めるの?

●血栓を溶かす薬や、手術などで治療を行う

血液をかたまりにくくする抗凝固剤(ヘパリンなど)や、血栓を溶かす血栓溶解剤(ウロキナーゼなど)などの点滴が行われます。またケースによっては、血栓を取り除くための手術が行われることもあります。
退院後は、必要に応じて血液をかたまりにくくする内服薬(バイアスピリンやワルファリンなど)の服用をします。

投稿者: ブログ

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